材料選択のフローチャート

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鉄鋼材料

汎用材→基本はSS400。市販性が最も高い。鋼板、棒材、形鋼のバリエーションも豊富。炭素量が少ないので溶接も容易である。
SS400の注意点・・・表面を削らない。材料内部の応力が開放されて反りがでるため。また焼入れ処理を行わずに生で使う。熱処理をしない理由は炭素量が少ないから焼きが入らない?

万能選手→S45C。SS400についでよく使われる。実務ではS45CかS50Cがよく使われる。S10CからS30Cは炭素量が少ない軟鋼なので、性質がSS材と等しく、選択する意味がない。S45C/S50Cは焼きが入る。通常の汎用剤としては生で十分使えるが、硬さを必要とする場合に焼入れをする。サイズが大きいと内部まで焼きが入らないので、φ20mmあるいは板厚14mmまでを目安とする。これ以上のサイズでは合金鋼を検討する。
注意点として、溶接は避ける。これは熱により焼きが入り、焼割れと呼ばれる欠陥が生じやすくなるためである。

以上をまとめると、
1)溶接を行う場合はSS400
2)焼入れを行う場合はS45C(あるいはS50C)
3)溶接も焼入れも行わず、材料表面の加工が少ないときはSS400
4)材料表面の加工が大きい場合は加工そり対策として焼きなまししたSS400か、S45C(S50C)

さらに1)強度の向上、2)焼入れ性の向上を狙うときは合金鋼を検討する。ニッケル合金は高価なので避け、クロム合金(SCr)かクロムモリブデン合金(SCM)を用いる。
例:
SCr・・・SC440
SCM・・・SCM435

SS400/S45C/S50Cでは黒皮材とミガキ材の両方が手に入る。黒皮材とミガキ材では、黒皮を除去したミガキ材の方が高くなる。建築部材と異なり、機械ではなめらかな表面を必要とするので、黒皮材であっても表面を除去して利用する。表面加工する手間を考えると、最初からミガキ材を購入したほうが良い。黒皮材は熱間圧延鋼板、ミガキ材は冷間圧延鋼板である。SS400あるいはS45Cのように、黒皮材/ミガキ材の指示がない場合は、どちらが納入するかわからないので、発注時は明示する。SPCCについては冷間圧延鋼板なのでミガキ材のみであるため、指示は不要である。
(※SS400は熱間圧延鋼板なので厳密には黒皮材しか存在しないが、メーカーが表面加工したものをミガキ材と称して販売している)

3.2mm以下の厚みにはSPCCを利用する。これを通常板金と呼んでいる。板金は力を受ける場所には使わず、センサなどの小型部品をとりつけるブラケットやカバーに用いる。

耐摩耗性が必要なときはSK95を利用する。SK材(炭素工具鋼)は0.6%から1.5%と多量の炭素を含有する。名前にとらわれず、工具以外に使っても良い。摩擦を受けるピンやシャフトに適している。SK95とSK85が入手性が良いのでこれらを用いる。考え方として、摩擦が小さい場合はS45Cを使用し、摩擦が大きいあるいは回転数が早い場合にSK95の生材あるいは焼入れ(HRC61以上)を用いる。S45CかSK材で迷ったらSK95の生材を使っておけばよい。ただし使用温度が200℃を超える場合は高速度鋼を用いる。

さらに摩耗が激しいときには合金工具鋼か高速度鋼を使用する(いずれも焼入れが前提)。
合金工具鋼・・・SKS材、SKD材、SKT材がある。価格が安い順にSKS3、SKD11(ダイス鋼)、SKH51(ハイス鋼)。ハイス鋼SKH51は焼入れによりHRC63以上が可能で、600℃までで硬さの劣化なく使用できる。摩耗の度合いは設計で予想するのが難しいので、とりあえず最初はSK95を用いて設計し、摩耗限界による交換時に部品の様子を視て合金鋼に格上げするのもよい。ハイス鋼SKH51はSK剤の10倍近い価格にあるが、寸法が小さければ価格の絶対差は小さくなるので、大局的に判断する。

化学的な使用環境が悪い、すなわち耐食性が必要な場所ではSUS304(ステンレス)を用いる。SUS304は非磁性であることも、他の鉄鋼材料には無い特徴である。ただし、曲げ加工などを行うと、加工硬化によってその箇所に弱い磁性を帯びることに注意する。
ステンレスは硬くて粘いので、加工性は悪い。SUS303はリン(P)と硫黄(S)を混ぜることで加工性を向上させている。耐食性はSUS304に劣るが、通常の使用環境であれば問題ないので、SUS303を基本的に使うことにしてもよい。

ステンレスは他の鋼材と異なり、表面処理(防錆)を必要としない点が有利である。すなわち完成までの時間を短縮できるため、特級品対応が可能である。スピード勝負の際はステンレスと心得る。SUS304よりも安くて加工しやすいSUS430を用いると良い。ちなみにオーステナイト系のSUS304(非磁性体)と異なり、SUS430はフェライト系のため、強磁性体である。

アルミニウム材料

軽さを狙うときはアルミニウムを用いる。
ところで軽さを狙うときはどのようなときか?
1)可動部の軽量化
例:ロボットアームのハンドを軽量化することで、モータの必要トルクを下げることができる。また、同じモータを用いた場合、ハンドが軽い方が高速に動かすことができる。また軽量化によって慣性モーメントが小さくなることで、位置決め精度を向上させることができる(オーバーシュートが減る)。

2)運搬物の軽量化(人手作業を楽にする軽量化)
作業者の体力の消耗が減り、効率的になる

アルミニウムの選定は1)汎用材、2)高強度、3)薄板の3種類に分けて考える。

汎用材

A5052を選択する。機械加工性、溶接性、市場性が最も高い。
A6063は押出加工性に優れるため、形状のバリエーションが豊富である。Lアングルや凸型のチャンネル・パイプなど形状を活かせる場合はA6063を選択する。

高強度

A7075は引張強さが必要な場合に選択する。A5052の1.5倍〜2倍の価格になってしまうが、引張り強さは570MPaであり、SS400を上回る強度を持っている。
なおアルミニウムは高温で強さが落ちるので、200℃以下で使用する。

薄板

A1100Pは軽量化を求めるカバーやパネルに用いる。光沢があるので高級感も出る。業者によってはA1050Pの方が入手性が良いので、どちらかを選べばよい。PはPlateの意味である。図面からも板材であることはわかるものの、慣習でPをつけている。
ちなみにアルミニウムは傷に弱いので、見栄えや軽量化の必要がなければ一般的な板金に用いるSPCCを選択する。

プラスチック材料

汎用材

ベークライトを使用する。アルミニウム材料の半分の軽さである。パレットやジグに用いる。
熱膨張が大きいので、寸法精度が必要な部品に用いるときは注意する。色は茶色である。

透明性

透明なカバーにはアクリル樹脂かポリ塩化ビニル(塩ビ)を選択する。

透明性&(ある程度の)強度

強度や衝撃性に強いポリカーボネートを用いる。ポリカーボネートは内部の応力を除去するアニール処理を行うことで、高い寸法精度で加工することが可能である。





出典
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